今テレワークが中心ですが、先週久しぶりに会社に行った帰りにプラットフォームで電車を待っていると向かい側のプラットフォームは歩いている人以外は電車を待つ人達殆どがスマホを見ていました。
もし同じ場所で何か事故があっても直ぐに気が付く人は少ないだろうなと感じていました。
電車に乗ると座った向かい側の列の全員がやはりスマホを見ていました。
それを見てずっと以前アメリカ映画で高級レストランの1シーンを思い出しました。
その時スマホはありませんが、食事をしていると誰かの携帯電話が鳴り全員が食事を止め同時に自分のバックやポケットから携帯を確認するパロディーのシーンです。
今スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんが書いた「スマホ脳」が話題になっています。
丁度上記のような状況を目の当たりにしたので早々に読みました。
本の帯を読んで衝撃を受けました。
平均一日4時間、若者の二割は7時間も使うスマホ。しかしIT業界のトップはわが子にデジタルデバイスを与えないという。何故か?
睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存――――最新の研究が明らかにするのはスマホの便利さに溺れているうちにあなたの頭が確実に蝕まれていく現実だと書かれています。
最初のページで何と見開きで一万の数の点のドットだけが表示。
これは一体何の意味だろう?
心理テスト?
すぐに説明があり最初の点1個が20万年前に私達の種が東アフリカに出現して以来の一世代を表していて、一万の点を全部合わせると人類の歴史になるとあります。
よく地球全史を1年で表現する事がありますが、同じようなアプローチです。
車・電気水道・テレビのある世界になったのは点8個分。コンピュータや携帯電話が存在する世界に生きたのは点3個分そしてスマホ、フェイスブック、インターネットがあって当たり前の世界しか経験していないのが点1個分と・・
スピーチでも漫才でも掴みは大切です。この本も最初にこのドットから疑問を投じ上記のような話の展開ですから、興味を深め読み始めました。
著者は人間の脳が長く時間をかけて作り上げてきたものが、このわずか最後の数個の点で劇的に環境が変化している中で、脳が同じように進化出来ず今大きなギャップを抱え色々な弊害が生じていると警告しています。
医師が書いているので、多くの実験データのエビデンスを基に展開しています。
脳のメカニズムを書いている章も非常に分かりやすく解説しているので、納得する部分が非常に多いです。
世界の幸福度ランキング7位のスウェーデン(2021年日本は52位)で2018年16歳以上の100万人近くが抗うつ薬の処方を受けていると書いてあります。人口から考えると9人に1人の割合になります。又2000年頃と比べると若者が睡眠障害の治療が8割増えているとの事です。
この数字と現実に驚きです。
何故幸福度ランキングのトップ10に入っている国の人たちがそのようになっているのか?
本では自国スウェーデンだけではなくアメリカや他の国の状況も書いてあります。
いずれも同じような状況のようです。
物や環境にも恵まれているはずなのに何故このような状況になってしまうのか?
この著書ではスマホに触れている精神状態を色々な実験で分析しながら解説しています。
一番印象的だった章がドーパミンの役割でした。
どうしてスマホがこれほど魅力的な存在になったのかと・・・
ドーパミンはよく報酬物質だと呼ばれますが、実は重要な役目は私達を元気にすることだけではなく、何に集中するかを選択させる事にもつながります。
報酬システムではドーパミンが重要な役割を果たし、生き延びて遺伝子をのこせるように人間を突き動かしてきました。
ドーパミンの最重要課題は人間に行動する動機を与えている事で、スマホもドーパミン量を増やします。
それがチャットの通知が届くとスマホを見たい衝動にかられる理由で、スマホは報酬システムの基礎的なメカニズムの数々をダイレクトにハッキングしているのだ。とありました。
だからGAFAと言われている企業は我々の脳のメカニズムを調べつくし、ドーパミンを利用しハッキングに成功したからこそ、ビジネスで成功を収めているのです。
恐ろしい状況です。
SNSは満足感だけではなく自信を失わせ、共感する力を低下させ結局社会性をも奪っていく。孤独感を強く感じ益々スマホを手放せない状態になり、麻薬のようになっていると警告しています。
きっと今はコロナ禍も増長させている原因ではないでしょうか。
勿論現在の生活に中ではスマホは欠かせないツールになっています。
しかしこの本を読んで、如何にスマホに振り回されるのではなく上手く利用していくか?
再考するきっかけを作ってくれました。
この本は自国スウェーデンでは大きな影響を与え小学校教育にも意見を取り入れています。
本には最終章でデジタル時代のアドバイスがあります。
色々デバイスやアプリを利用する時の時間制限や向き合い方等です。
著書には日々適度な運動で心拍数を上げる事が脳の活性化に有効である事を書いてあります。勿論散歩だけでも相当の効果があるとの事です。
スマホを完全に手放せない今、せめて散歩で季節の移り変わりを感じ、自分の気持ちを落ち着かせるよう心掛けようと思います。
この本は書棚に置いてこれからも定期的に読み返したい本の一冊になりました。
スマホやPCとの関わりを捨てられない現代において是非読んで頂きたい一冊です。
金子 孝一