前回はホテルでの仕事を書かせて頂きました。
楽しく仕事をしていたのですが何より順調に進んでいる時こそ注意が必要と過去のブログにも書きましたが、まさにここでのエピソードが大きく影響しています。
少しずつ仕事にも慣れ信頼も感じていた時に大きな失敗をしてしまいました。
一度に何枚もの高価なロイヤルコペンハーゲンの食器を割ってしまった事です。
それも一度ではなく二度もです。
ここで使っている食器の多くはアンティークなロイヤルコペンハーゲンでした。

2階のガラス張りのテラスが食堂になっていました。
食事や食器等は2階のテラス、1階のキッチンとの運搬用に手動の古い食器用エレベーターがありました。
狭い螺旋階段を使うのは危険なのでこの手動エレベーターを運搬用に使っていました。
大きさは大体横60cm奥行60cm高さ90cm位の木製です。古いホテルですので、電動ではありません。
箱の上にバネが付いていて2階の食器用エレベーターに食器を置き、1階に降りてエレベーターの底についているロープを手で引っ張り下ろし、上にバネで跳ね上がらないようロックをして食器を出し入れする仕組みになっていました。

絶対にやってはいけないのが下におろした時に必ずロックをしないとバネで載せている食器が上に持ち上げられてしまうのでロックを忘れてはいけない事でした。
そのやってはいけない失敗を2回もやってしまい、大切な食器を何枚も割ってしまいました。

1回目の失敗の時ご夫婦からも、慣れてないとやってしまうから気にしないで言われました。しかし3日か4日後だと思います。同じ失敗をしてしまいました。
私は何度も「すみません!すみません!弁償します」と謝りました。
ご夫婦は優しく大丈夫、大丈夫と慰めてくれました。
しかし自分自身に腹がたったので、キッチンの食器用エレベーターの上に
「同じ間違いに学ぶ事は何もなし!絶対にロックを忘れない事!」と書いた紙を貼りました。
日本語で書いたので何と書いてあるのかとご夫婦から尋ねられたので、意味を説明すると大笑いしていました。

当然私がいる間はその紙はずっと貼っていました。
注意する事は常に目に入るようにリマインドしました。
その後本当に多くの優しさに触れ一か月間があっという間に過ぎました。
色々な国のお客さんから日本の事を質問されたりしても満足に回答出来ない自分が本当に日本の事を何も知らないと改めて自覚しました。

帰国の前日にご夫婦から現地のハンドメイドのキャンドルスタンド、その年のロイヤルコペンハーゲンのイヤーズプレートを記念に貰いました。
私はそのイヤーズプレートを貰った感動で、会社設立後スタッフには年の最後にロイヤルコペンハーゲンのイヤーズプレートを感謝の気持ちを込めてプレゼントしていました。(25年以上続けました)

そして他に頂いた封筒に入っていたのは結構な金額のお金でした。
私はそれを見て直ぐにお返ししました。当初から1カ月間の宿泊と食費を出してくれるだけで十分でしかも大切な食器を何枚も割ってしまった・・
しかし二人からこのお金は来年ここに再び来てもらいたいから渡すと話してくれました。
私は涙・涙で二人とハグして感謝の気持ちを一生懸命伝えました。

帰りの飛行機で来年も必ず訪れようと決心しました。

翌年夏に何も連絡せず突然「ソウルバッケン」を再び訪れました。
時間で皆が何をしているか分かっているので、そのままキッチンへ
喜びの再会でご夫婦に挨拶していたら、食器用のエレベーターの上に私が一年前に失敗して書いた紙がそのまま貼ってありました。
その後日本人が何人か来るようになって来る度に、この紙を見せて私の話をすると言っていました。
嬉しいやら恥ずかしいやら

私はその出会いがきっかけで卒業後すぐ就職せず、より自分の視野を広げたいと考え留学の気持ちが固まりました。
家族含め友人もその当時は卒業後直ぐに就職が当たり前の時代ですから反対されましたが、決心は変わりませんでした。

金子 孝一